生食餌の注意点



 犬に与える生食餌が大ブームになっている。アルバイト先の飼料店はもとより、最近はどこのペットグッズショップでも、こちらのふつうの量販店(セイユーや、ダイエーみたいな)ですら、冷凍庫や冷蔵庫を備え、肉と野菜・果物のミンチを大きなソーセージ様のチューブに詰められた生食餌が積み上げられているという状態だ。バイト中聞く顧客の声や、インターネットを見てみれば、どこもかしこも生食餌礼賛の声で溢れている。

 管理人は、日本に居た頃から、知り合いの猟師さんが手に入ったシカやイノシシの肉を骨ごと飼い犬(主に猟犬達)に与えるのを見ていたので、このような給餌スタイルに対してとりたてて真新しさは感じない。けれどいざそれを自分の犬にやってみようとすると、生食餌をやることに漠然と良い印象を抱く以外に、具体的にどのようなことに注意するべきなのかを、今まであまり考えることなく来てしまったと感じる。今日はこれらの餌に関してアメリカの獣医師の出しているコメントを調べ、それをもとにして気を付けるべき点数項目をまとめた。


 生食餌をやる場合、考えられる注意点


・ 栄養バランスを完全にすることが難しい。自家製生食餌の場合に特に不足がちとされるのはカルシウムと、それに対して正しい割合のリン。また市販の餌でも、銘柄によってはビタミンA過剰摂取の危険があるものがあるという。というのも、生食餌の重要な原料として内臓肉が挙げられるが、中でも特に大きな比率を占める肝臓は、ビタミンAを多く含んでいるため。

・ かなり高額になりうる。アメリカの場合、約15キロの犬に対して市販の最高品質のドライフードを与えると、一日あたりの食費がおよそ100円ほどになるが、同等分を生食餌に置換すると、チキンベースで250円、他の肉ベースならば500円近くまで上昇する。「愛犬のゴハンに、お金を惜しむなんて!!!」と考える人ももちろんたくさんいると思うけれど、将来的に50キロ、もしかすると60キロ代になるかもしれない大型犬の飼い主からすると、「犬の食費をいかに常識的な域におさめるか」というのは、重要な課題なのだ(きっと大型犬オーナーの方は頷いてくれると思う)。例えば我が家の場合、予定している子犬のブリーダーに伺ったところによると、子犬のオス親は体重約55キログラムで、現在生食餌を一日にだいたい1.4キロ消費するという。これは、比較的安価な生食餌だけを使用したとしても、一生涯分の犬の食餌費用で愛車(ボルボ)をツルピカ新品でもう一台買える計算になる。また安価な生食餌を与えるということは、=比較的高価なボア(野猪)、ヴェ二ソン(鹿)などの良質な赤身肉は材料リストから外れ、ほとんどチキン一択のような状態になるということでもある。大型犬の飼い主が生食餌を与える事を本気で検討するならば、地元の猟友会と個人契約するくらいの意気込みでなければ大変だろう(それも彼らの人件費を考慮すると必ずしも割安になるとは限らない)。犬の生涯を通して飼い主の経済状況に思わぬ変化がある事もあるかもしれないし、犬の健康上の理由などから、途中で生食餌から缶やドライフードに移行しなくてはいけなくなった時に犬がストレスを感じる可能性が考えられる事も注意点だと思う。

・ 感染症の危険。2004年のFDA(アメリカ食品医薬品局)の報告では、一般的に売られている生食餌のおよそ7.1%からサルモネラ菌の一種が、また使用される生肉の59.6%から大腸菌の一種が検出されたとしている。これらは犬に対して害がある可能性だけでなく、それらを準備する側の飼い主のリスクにもつながる。サルモネラは比較的ありふれた菌だけれど、パピーやシニア犬、また人間の幼児や高齢者の間でも重症化することがあり、毎年死者も出ている。このようなメンバーが居る家庭では注意が必要だ。(因みに大腸菌は低品質の缶フードからもしばしば検出される)。またレアなケースとして、日本では報告されていないけれども、Neorickettsia helminthoecaという病原体をもったリケッチアの一種に感染したサケ科の魚を犬が生食することで「サケ中毒」と呼ばれる状態に陥り、適切な治療を行わなければ死に至ることが知られている。生食餌をふだん売っている側からすれば、非常に厳しい滅菌プロトコルを実行している会社もあることは分かっているので、そういう所を積極的に利用したい。

・ 全ての犬に対して優良な餌ではない。生食餌だけでなく、「高タンパク」を謳うほかの餌にも共通する問題として、これらの餌は肝疾患、腎疾患を患っている犬にとっては消化の負担が大きい餌だということが挙げられる。獣医師によると、膵臓疾患や癌の治療中の犬にも与えるべきではないとの事。既述のバクテリア感染症の問題で、免疫系が完全ではない子犬や老犬も避けた方が無難である。また子犬の場合特に、日々の餌から正しい分量のミネラル分を摂取できるかどうかはクリティカルな問題なので、最初に上げたようにカルシウムが不足する可能性のある生食餌の使用は注意を要する。


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 これらを知ったうえで、犬のオーナーが心がけられる事を考えてみた。;

①生食餌と同時にドライフード、缶フードなども食生活に取り入れるか、うまいぐあいにミックスして、併用する。ふだんから、犬の体質に合った中で出来る限り様々な形態や味の餌を与え、犬が食餌のバラエティに順応できるようにしておく。

②リストに載っている餌の源料、製法を調べる。もし分からないことがあった場合、製品のウェブページをよく読み、それでも分からないことがあれば、会社に直接問い合わせる。きちんとした回答が得られない会社は除外する。

③生のままの肉や骨や魚が手には行った時は、そのままやらず、いったん凍らせてから解凍して与える。(ただし、サルモネラ菌は駆逐できない事があるので注意する。因みに魚は鋭利なパーツがあるものも多いので下処理は念入りにする)。

④定期的に獣医師の検診へ行き、健康面に問題はないか、不足している栄養素がないかアドバイスを受ける。

だと思う。生食餌はまだまだ黎明期にあり、メリット面においても、デメリット面においても、これから色々分かってくる可能性がある。管理人の場合は愛犬家である前に、自然愛好家でもあるので、「犬のQOL向上のため」と称して、製造、輸送、陳列のどのステージにおいても過剰にコストのかかる生食餌を与えることは、エコロジカルだとは言いがたい面があるような気もしている。

 今日の扉写真は犬とは関係ないけれど、自宅で飼っているロボロフスキー・ハムスター用に用意している餌。自然下での食生活を考慮しながら市販のハムスター用ペレット等は一切やらずに飼っているんですが(ハムスターにとってははた迷惑)、1年目を過ぎ、体重、毛艶、健康状態、活性、どれもすこぶる良好。犬にとってはほとんど必要のない穀類も、ハムスターの世界ではなくてはならない重要な食べ物になる。犬やハムスターにかぎらず、その動物が、自然界でそもそもどういうものを食べ、どんな暮らしをしていたのか?と考えることは、生食餌をやるか、やらないかとかという事とは別に、考えると楽しい話題だと思う。