2021年11月19日金曜日

褒めることの有効性


 どの飼育書、しつけ本にも必ず書かれていることがあります。犬がいいことをしたら「犬を褒める」ということです。でも常々疑問に思っていることがあって、「褒める事はいつも必ずしも有効なのか」ということです。そんなに単純な事ではないと感じています。これはいままでいろいろな犬にふれあったり、また以前飼っていたドーベルマンや、今飼っているシェパードに毎日かかわる中で出てきた問いです。

 この世には「褒められる事が有効な犬」というのと、そうでない犬がいるように思います。私の思う「褒められることが有効な犬」というのは、


①生まれつき褒められる事への感受性が豊かな犬

②後天的に褒められる事への感受性が豊かになっている犬


の2種類です(厳密に言えば、同じ犬でも状況によって感受性が増減しますが、、、たとえば家のキッチンと公園とでは褒めへのリアクションが違ったり、、、今回は「本質的に褒められることが有効かどうか」について考えたいと思います)。

 ①は、遺伝的背景などによって、ほとんど生まれつき褒められることが大好きなように見える犬です。子犬なのに声掛けすると短いしっぽをピロピロ振って、いくらでも人間の活動に付き合おうとするような犬です。特別人に対して親和性を育みやすい性質などの副産物なのかもしれません。私からするとそんな犬と暮らす事が出来ている人は大変ラッキーだと思うのですが、世の中の多くの犬はむしろ、飼い主との沢山の良い思い出を通して「褒められること=いいこと」と、頭の中でしっかりとヒモ付けられて、はじめて褒められることの意味を真に理解できるようになっていくように思います。これは②のパターンです。

 ②の犬は、しかし、「自分が褒められてる」「褒められることはうれしいことだ」とピンとくるまでに、かなり時間がかかることもあります。飼い主の側がそう思える状況を十分に作れていないなど、理由は多々考えられますが、生まれ持った性質としか思えない事もあります。私が以前飼っていたドーベルマンもそうで、「この犬は自分が褒められて心の底からよろこんでいる」と私が確信するまでに、じつに7年位かかりました。しつけ本に出てくるみたいな「素直に喜んでくれる犬」「褒められようとがんばる犬」になるまでに、じつに寿命の半分以上が経過してしまったのです。後から思えば、犬にとって私と言う存在がまだまだそこまで重要視されていなったからだと思います。ドーベルマンは強い犬なので、そんなどうでもいい存在の人間にほめられようが怒られようがシッタコッチャネ~、だったというわけです。

 犬のしつけを考えるとき、トレーナーさんの言う通りにやっているけどなかなかうまくいかないな、というペアの中には、こうしてほめるとかしかるとかいう以前に、犬と人の関係がまだきちんと構築できていないケースもけっこうあるのではないかと思いました。そういう時「褒める事」は報酬として全く意味を成さなくなります。




 考えてみればあたりまえなのですが、実際のところ自分に対してどんな価値があるのかはっきり分からないひとが、自分がやったことに対して突然キャーキャー言って喜んだって、それで天にも昇るような気分になったり、震えるほど感激するということはないわけです。周囲のドッグトレーニングの様子を見ていても、そんな状況になっている場面を時折見ます。飼い主はワオ!グッド!とすごく嬉しそうだけど犬自身は全く気にしてなかったり、気弱な犬とかだと、どうも自分が原因らしい飼い主の豹変(?)にビク!と挙動不審になっている場合すらあります。こうなると「褒め」は通過して犬にとってはドッキリの域です。個体によって適切なレベルの褒め方があると考えられます。

 また超個人的な見たてになりますが、これは叱る時も同じだと思います。もともと飼い主と強い絆で結ばれている犬は少々叱られたり小突かれたりした位では揺らぎません。でも、仮にそういう関係性抜きでいきなり叱ったりしたら「頭ごなしな学校の先生」とか「暴力的なオヤジ」みたいな感じになってしまい、犬は驚き、こわいから言う事を聞くようになるか、逆に猛反発して暴れん坊になるかもしれません。これは良い人&犬の関係を築く上で多くの人が目指したい所ではないと思います。

 先進社会では犬を叱ることについては非常に賛否両論あります。私はというと、自分の犬を厳しく叱ることがあります。コディも私に厳しく叱られたことが何回かあります。けれども、叱る時はふだんからその10倍、いや50倍は褒めるようにしています。ふだんからの関係性が良いことが大前提だと思います。また叱る事も褒める事も犬にわかる・伝わる形で行う事がとても大切です。


 「褒め」のもう一つの側面として、「犬をやたら興奮させてしまう」という効果もあるように思います。これは逆に褒められることの意味を既にとてもよく分かっている犬に起こりやすいように思います。たとえば今飼っている犬のコディは、特定の状況で遊びをしている時に「グッドボーイ」と言うと、真顔になり、耳が直立し、身体がこわばり、私を凝視する瞳がギラギラしてくることがあります。これはコディが褒められた喜びの絶頂にいる時の表情なんです(以前通っていたドッグランに、この状態のコディがどうしても怖くて冷汗がでて体が硬直してしまうという人がいました)。

 こうなると、コディの場合はその後何かをさせてもバーンと元気が爆発してしまい、乱雑で適当な動きになってしまいます。「グッドボーイ」があまりに刺激的すぎて、コディの心と体のコントロールを弱めてしまいます(考えようによっては、犬に爆発的な力を出させるようなタスクには向いてるのかも知れません)。このことから、場所や状況によっても、適切なレベルの「褒め」があるのではないかと思いました。

 いつもの如く長くなってきたので振り返りますが、犬を褒めることも(叱る事も)、まずは関係ができてから、犬に「この人にほめられたい」と思う人になることが、多分先決だということ。そして、個体・場所・状況によっても適切な褒め方があるんではないか~?、、、というところまでまとめて、おわりにします。

 今日の写真は2ヶ月前に発根していたエケベリアです。ゆっくりですが窓際でも成長を見せてくれています。これらは皆同じ親株から出たクローン体のはずですが、成長速度や体色にけっこうばらつきがあるのがおもしろいです。来春頃には人にゆずれる位の大きさになってるかも知れません。