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2026年5月1日金曜日

アメリカの獣医で「賢い患者」をめざす


 コディの腫瘍の手術のフォローアップのため、外科の先生に会いに行った時の話です。

 傷自体の回復は非常に順調でしたがやはり再発はあると思うよ、と言われました。腫瘍内科の方では化学療法(キモセラピー)を勧められたけど、私はしないよ……と言うと、先生はラブラドールレトリバーみたいなタレ目をきっと吊り上げて、「11歳?俺もしないと思う。」と即座に答えがきたので、驚きました。「犬にだって治療を選ぶ権利がある」と、医療サービスを販売する側がそんなこと言っていいのかなあと思うようなことをわりと断定的な口調で言ってきたので、印象的でした。コディは術後十日ほど経ってから、肛門から見て7時の方向に小さなピンク色のおできのようなものがでてきたことが気になっていたので、このことについて質問したところ、先生は 「はじめからそこにあったよ」と言っていました。

 毎日愛犬の体を拭いて、おしりまわりの状態を逐一観察している飼い主が犬のおしりに「もともとあった」というおできを見落とす可能性はとても低く、「信頼のおけるえらい先生でもやっぱり事実と異なる見解を口にすることがあるのだな」と思いました。そういえば最近、自宅の空調システム(HVAC)の修理でも似たようなことがありました。地域で一番、腕の良い修理工さんに来てもらい、9000ドルの交換費用を支払った後に、よく調べたら「結局取り換える必要はなかった」と判明して、開いた口が塞がらない思いをしてた一件を思い出しました。この件をキッカケに「アメリカでの専門家との関わり合い方」について色々考えさせられました。

 田舎町へのハイウェイをコディをのせてとばしながら、自分のやり方がまずかったな、と反省していました。おできの事が気になって、そんなに「自分は毎日逐一オシリ見てる」とか言うならば、それこそ毎日逐一写真を撮って、フォルダに並べて経過をまとめ、あらかじめ外科の秘書さんあてに送っておけばよかった。そこまでやって一丁前の「逐一」だ、と思いました。毎回、医療機関で英語できちんと説明がしきれたか不安に思うのならば、簡潔なタイムラインはプリントアウトして、質問と話題ももっと整理してから望めたなと思います。つまり、怠惰が敗因だったと思いました。

 情報化の影の部分と言うか、やはり『情報弱者』や『スキルのない者』みたいなのは構造的に損をする仕組みにもう完全になってしまった社会をわたしたちは生きているので、たとえば犬の健康について記録をとらないちょっとした「なまけ心」であるとか、エアコンの構造の基礎すらわからない「無知さ」、これらにより自動的に専門家に対して完全な依存状態となってしまうのがまずいんだ、と思いました。

 日本だと善意や良心に基いたサービスというのがこの状況を大分マシにしていると思うのですが、アメリカはではそういうお金にならない高潔さ、みたいなものはあまりあてにしない方がよく、怠惰や無知は単純に代償(大抵は請求書)となって跳ね返ってきます。専門家に関わる時には、消費者の側も明確な意思と行動を見せることが必要なんだということです。今後気を付けることを3つ考えたので、自分のためにも下に書いておきます。

今日のおぼえがき
  • 「記憶」より「記録」
  • 専門家は「雇われた人」
  • 勉強の継続

①「記憶」より「記録」


 昔「モノより、思い出。」という有名なテレビCMがあったと思うのですが、獣医さんにかかる時はこの真逆で、なんでも記録(モノ化)しておきます。お医者さんが自分の犬を見てくれるのは数週間に一度か、もしかすると数ヶ月に一度のしかもわずか15分とかその位です。知り合いの人間のお医者さんにも聞いたのですが、最近はインフレだけでなくさまざまな物価の上昇から、病院の先生達もなるべく多くの患者をさばかなくてならない状況になってしまっている病院もあるようです。「曖昧な愁訴」みたいな状態で病院に行かないように、懸念があるなら明確に、その根拠は物的証拠に、とよく気を付けておきます。

 また病院の先生は医療の専門家ですが、「うちの犬」の専門家ではありませんので、愛犬が元気な時から愛犬の体表、歩様、排泄物の状態などを誰が見てもわかる形でジャーナリングすることは良いと思います。日付とともに記録に残し、異常は「いつから、どのように変化したか」を客観的データで示すことで、飼い主自身にとっても思い込みや適当な処理を未然に防ぐことができます。あと、写真や数字をきちんと出すと獣医師にも「誤魔化せない飼い主」というメッセージを健全に伝えることができます。

② 専門家は「雇われた人」

 日本人的感性だと、学校や病院の先生などはわりと「権威」的な雰囲気があって、患者がシロウトくさくあれこれ口を出すのは失礼かもと思ってしまったりするのですが、アメリカではこの「先生にお任せします」という態度はむしろ思考の放棄であって、患者を特に脆弱な立場にしてしまう主な原因といえるものです。

 獣医師は高度医療という技術を提供する人員で、平たく言えば「お金を払って雇ったコントラクター(請負業者)」です。愛犬の健康管理というプロジェクトの雇われたメンバーといってもいいですね。このプロジェクトの最終責任者は飼い主自身となりますが、エアコンの修理業者が根本原因を見誤るのと同じように、獣医師も誤診や見落としはあるでしょうし、提案された検査や治療法に対して「なぜそれが必要なのか」「別の選択肢はないのか」「それをしなかった場合のリスクは何か」を論理的に問い、専門家と対等な立場で議論を交わす姿勢は、飼い主(雇い主)の正当な権利です。またこういう姿勢が結果的に医療の質も引き上げると思います。

③ 勉強の継続

 「対等に議論をするぞ」と力んだって、先立つ知識がなければむりです。悲しいことに、現代は「素人だから分からない」という言い訳ももはや通用しない世の中になってしまいました。ためになるリソースはオンラインにあふれていますし、獣医学の論文や治療プロトコルの知識へのアクセスも開かれているので、 診察室で告げられた診断名や見解は持ち帰り、帰宅後に自らリサーチをかけ、必要であればセカンドオピニオンを求めることも重要です。賢い患者をやるにはとにかくなまけない、とにかく考えることから逃げない。ということですね(根性論みたいな結論になってしまった)。知恵のない方が割を食うのは、自然界のあたりまえの摂理なので、腹をくくって勉強を続ける、ということです。


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