2015年3月20日金曜日

生後10週目



 家から出てすぐのあまり人通りのない脇道に、ひと株だけスノウ・ドロップ(マツユキソウ)が生えている。 今までもなごり雪のまばらなこの時期になると、その隙間からひっそりと1・2輪だけ綺麗な花を咲かせていたので、風が吹くと小さなベルのように揺れるかわいらしい佇まいが、冬を乗り切った証の様な気がして、毎年楽しみにしていた。そしたら今年は雪が多かったせいか、奮起して?5つも花を咲かせていた。これは過去3年間で最多の開花数だ。そんな今日は米国ではFirst Day of Spring、春分にあたる日なのだ。外はダメ押しのように雪がちらついている。




 コディは生後10週目に入り、体重は12キロ弱になった。大きいようだけれど、他の兄弟と比べると小さく、目測1週間分ほど成長が遅れているのでちょっと心配している。道で出会ったジャーマンシェパードを連れたお姉さんが、おやつにカッテージチーズを食べさせると良いよ、耳も早く立つよ。と教えてくれたのだが、コディはお腹があまり丈夫じゃないので、食の冒険はまだあまり出来ないのが残念である。

 雪のちらつく今日の様な日は表を歩き回っての散歩は難しいので、街へ行って犬入店OKな本屋、服屋、雑貨屋等を主に巡ることになる(写真はAntholopologyという服屋で)。コディはまだオヤツやハンドサインのガイドが要るけれど、日常生活に最低必要と思われる、12のコマンドがだいたい出来るようになってきた。今週末から来週にかけては、何故か苦手でなかなか上手にできない「マテ」と、「スワレ」・「フセ」・「タテ」の区別をはっきりさせること、またトリミングに慣れる練習(特に爪切りとシャワー!)を主にやっていきたいと思う。手への甘噛み癖、オヤツを貰う時歯を使いがちな事、不可思議なものや、フラストレーションを感じた対象物(特に他の犬)に対して吠えてなんとかしようとする事は、シェパードの仔犬の間では比較的よく見られる傾向だという。だからといって放置していいとはあまり思えないので、今後もトレーナーの人にいろいろ話を聞きながら、改善していけるようにがんばりたい。





2015年3月15日日曜日

BONNIE



 犬を迎えるためにと前々から準備して今月いっぱいとっていた休みも、気が付くと半分が過ぎてしまっていた。最初の頃は「一ヶ月も赤ん坊犬につきっきりでいたらノイローゼになるかも」と懸念していたけれど、ここへきてもうあと二週間しかないぞ!と慌てるとともに若干寂しい気分を味わっているのは、仔犬の成長の速さを目の当たりにしたせいかも知れない。コディは耳をすますと、めきめきと音が聞こえてきそうなぐらいのスピードで大きくなってきている。仕事や用事で家を留守にするようになれば、成長期の一瞬で現れては過ぎ去っていく変化を見逃してしまうことになるのが惜しいと思うようになった。

 反面、今月に入ってから犬の飼育用品一式にゲートにクレートに、ブリーダー宅への何往復分ものガス代やホテルの宿泊費、トレーニングクラスの月謝に医療費、子犬用の健康保険プランに・・・・・・と、あらゆる箇所で散財してしまったので早々と仕事やバイトに明け暮れたい気持ちもヤマヤマなのだ。。そこで、クレートトレーニングを急いでやる必要が出てきた。基本クレートなど入りたくない子犬に、静かにクレートに入っていてもらうには?トレーニングやオヤツも有効だけど、やはりまずは犬自身をクタクタに疲れさせておくことがいいと思う。

 写真のかわいい若犬「ボニー」に出会えたのは、上のようなわけで、コディと共にバージニア州アレクサンドリアという古い波止場町を歩いていた時だ。通りを行く姿に何か特別なものを感じたので、歩み寄って「この犬は何という種類ですか?」と聞いたら飼い主のオジサンとその彼女が大変嬉しそうに(本当にめちゃくちゃ嬉しそうにしていた)、「パタデールテリア」という犬だと教えてくれた。

 一見テリア系の雑種と思われることが多いというこの小さな犬は、ネズミとり専門の作業犬として、非常に古くからイギリスで使われてきたという。作業能力の追求のために良い犬の血を取り入れるので犬種というより「タイプ」に近いようだ。ボニーの飼い主のオジサンは、イギリスで素晴らしい成績をもつ犬を個人輸入してここ米国で繁殖しているのだという。オジサンはさらにこの犬の特技を生かして、ワシントンDCエリアのオフィスや建物で害獣駆除を行う会社まで設てたのだという。現在10数頭が実際に働いていて、ボニーも含む数頭の若犬たちが未来のマスター・ネズミ捕りとなるべく訓練を受けているという。ほかにネズミの通り道の探知、南京虫(ベッドバグ)の探知も行うという。とても面白いアプローチだと思う。


出かけるまえ、おべべを着たコディ。残念ながら記念撮影のみとなった。
本人はすこぶる毛深いため寒さは平気。


 写真には残していないがもうひとつ印象深かったのは、犬種の説明をしながらオジサンがボニーのシッポを掴んで、ヒョイと地面から持ち上げた事だ。今まで見た事のない犬の持ち運び方(?)だった。知らない人が見たら虐待と思えるような持ち方だが、作業中、穴や狭い隙間に潜り込む犬を効率よく引き上げる、パタデールテリアの間では普通に行われているハンドリング法なのだという。犬の方も勝手を分かっていて、持ち上げられた瞬間手足を縮めて顎を引き、すっかりコンパクトになってぶら下げられていたので感心した。これはそもそも犬が軽くて小柄な事、また仔犬の頃から練習を繰り返すうち尾の付け根の軟骨が丈夫になっていくことで可能になるそうである。

 オジサンによると、パターデールテリアはコディ(シャイロ・シェパード)と同じく、AKCに公認された犬種ではないのだという。オジサンはまた、作業性能が最大にして唯一重要なこのテリアにとってAKCに認められ、コンポジショニング(ショーイング)の選択肢が出来る事は犬種にとってはマイナスであるという。そういえばコディを迎えるまでに話した複数のシャイロ・シェパードのブリーダー達も、ほぼ誰一人として「AKC公認」をゴールにしている人は居なかった。公認犬種になると同時に玉石混合のファンとブリーダー層が現れて、犬種自体の品質に格差が生まれていくことは、犬の歴史上何度も繰り返されたことである。

 一生展覧会のスポットライトに当たることのないボニーだけれど、道を行く犬達の中でもひときわ輝いていたように思う。永遠に止まらないシッポと、『自分が生まれてきたわけを知っている』とでも言うような、あのいきいきとした瞳がそう思わせたのかもしれなかった。



2015年3月9日月曜日

仔犬がきた



 雪深いペンシルバニアの山奥から南へ数時間、車の荷台でコトコト揺られて家に来ました。大きさのせいか、顔のせいか、あまり「犬の赤ちゃん」というかんじがしないんですが、シャイロ・シェパードのオスで生後約9週、名前はKodiak(コディ)としました。性格は優しい犬ですが、突然大胆な独立心を見せることもあるので、コントラストが面白いと思いながら観察しています。

 冬生まれらしく雪が大好きで、自宅の裏庭の雪を嬉しそうにシャクシャク、ちょっとづつ食べていたんですが、ここ数日ぐっと春らしくなったことで雪が溶けてしまいました。どうするかなと見ていたら、今度は雪の下から出てきた「コケ」は食べられるかどうか、果敢にチャレンジしているようです。裏庭ではボールやタオルなど、たまにですが何かを持ってきてくれます。今日はコケを食べた後、3センチくらいの小石を拾って届けてくれました。朝と夕とでは大きさが違うと感じるくらい、めきめきと猛烈なスピードで成長しています。

 はたして15年ぶりの仔犬育て、うまくできるだろうか。まずは自分にとっても、この犬にとっても、家庭にとってもひとつの転換点となるだろう、半年後の9月末を笑って迎えられるように頑張りたいと、気合を新たにしました。





2015年3月4日水曜日

KUSHAKUSHAKUN




 心のなかで「クシャクシャ君」と呼んでいる犬が来た。クシャクシャ君は見てわかる通り、生まれついてのくしゃくしゃシルキーヘアが、常に3倍速で活動しているおかげで加速度的にさらにくしゃくしゃしていくという、なんとなく宇宙の定理を想像させる犬だ。この犬はとても小さく、ラットテリアと、チャイニーズクレステッドドッグと、あと何かのミックスだという(飼い主は「サモエドも入っている」と主張しているが自分は「たぶんそれはない」と思っている)。

 クシャクシャ君はなぜこんなにもくしゃくしゃになってしまうのか?という問いは、なぜ彼は常に走り回らねばならないのか?という問いと、連結している。その理由は、クシャクシャ君が勝手に決めた彼の職業による。貰われてきたその日から、クシャクシャ君は「人間のお母さんをまもる」という事に、その小さな胸いっぱいのパッションがバーニングなのだ。クシャクシャ小宇宙の真ん中にぽっかりと浮かぶ「人間のお母さん」の衛星である彼は、いつも彼女の周りをくるくる周回している。誰かが不用意にお母さんに近づきすぎれば、口を小さなo(オー)の形にして、空に向かってキャオーン、キャオーン、と警報する。なりふりなんか文字通り 'out of universe'でかまってなどいられないのだ。

 そんな、他人にとっては若干迷惑なクシャクシャ君だが、「人間のお母さん」に鼻からしっぽの先まで溺愛されて、とても幸せな毎日を送っているようだ。二人だけのユニバースが、いつまでも平和で満たされている事を願っている。





2015年2月28日土曜日

仔犬の社会化と気付いた事




 あっという間に3月になりました。件の仔犬達はもう8週目に入る所だそうで、ここのところあらためてベッドの脇に積んであった「仔そだて本」数冊をひっぱりだして夜な夜な、近所の定食屋さんに入り浸り、読んでいた。そこで、ホラーな事実に気付いてしまったので、今日は、その事について書こうと思います。

 気付いた事と言うのは、イヌの一生にとって一番感受性の豊かな時期(=最も効果的に社会化できる時期)は、飼い主が子犬を家に連れてきてからひと月ほどで終わってしまうという事実。それは、複数のジャーマンシェパードのブリーダーや飼い主達に勧められたThe Art of Raising a Puppy(写真の本)を読んでいた時、その成長段階ごとの説明を見ていわゆる「真の社会化期」って、意外と短いなと思ったのが発端だった。そこで一般に言う「社会化の臨界期」の厳密な時期についてがぜん気になりだし、調べたところ、Dog Actuallyというブログマガジンの史嶋桂さんの書かれたコラムにこの頃の発達についてわかりやすくまとめてあったのを見つけることができた(灰字部にリンクしました。これから仔犬を飼おうと思っている方におススメの記事です)。以下は読書の覚書もかねて、「生後0日から4か月めまでの間に子犬の脳裏で何が起きているか」について、手持ちの本やウェブサイトで読んだことを自分なりにまとめたものになる。

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 生後0~13日目まで

 仔犬は嗅覚、触覚にまつわる単純な記憶以外を学習する能力はなく、日常の90%の時間を寝て過ごしている(起きていても寝ていても脳波に変化がない)。しかしこの時期の終わりごろから徐々に個体差らしきものが出てくる。この時期人間のハンドリングによって日々仔犬が「適正なストレス」にさらされることが、諸説あるがその後の社会化に一定の効果を生み出すと考えられている。

 生後13~20日まで

 12日から15日目までに子犬の目が開き、仔犬の感覚が急速に成長する時期に入ったことを知らせてくれる。感覚器の発達と共に、仔犬達は自分の今居る環境や、外界からの刺激に対してずっと繊細になる。仔犬は自力で棲みかの中で「冒険」を始めるので、様々なオモチャ等に触れる機会を与えられるようにする(このあたりが社会化期のぼんやりとしたはじまり、と言う気がする)。

 ここでも子犬に「適正なストレス」を与えることが重要視される。例えば足先をつまんだり、体重計の冷たいプラスチックの表面に乗せたり、仰向けにひっくり返すなど。これらのプロセスを行った後は、仔犬をやさしくゆっくり撫でて落ち着かせ、ストレスとなでられる経験をセットで印象付けるようにする。ここで、人の介入や触られることによく慣らしておくことが、後でイヌの体のケアや獣医師の検診をずっとラクにする。

 生後3週間~12週間(三か月齢のおわり)まで

 真の社会化期の到来。その犬が一生を通して受け入れるべき物事は、全てこの時期に親しまされておく必要がある。この時期の社会化は主に2つの段階に分けられる。

フェーズ①:犬同士の社会化期

 生後4~6週間の間に訪れると考えられている、母犬や兄弟との重要な交流の時期。仔犬たちはこの時期、与えられた棲みかから出て他の兄弟たちと遊ぶようになる。ここで様々な重要な事・・・個体同士のコミュニケーションの仕方や、他者に対する力加減を学ぶ。5週目の半ばころ、子犬はそれまでの母犬だけにフォーカスした生活から徐々に「それ以外の世界」へと興味を移行していく。

 犬同士の社会化と並行して、仔犬たちは自分の「においのポスト」を設定し始める。これはトイレの場所を自分で決め、自発的に巣を離れて排泄し、寝床を綺麗に保とうとする本能的行為である。だからこの時期に不衛生なケンネル等で生活しなければならなかった子犬は、あとで排泄の問題を抱えることが多い。

フェーズ②:人との社会化期

 生後5~12週間の間に訪れると考えられている。一般的に社会化の臨界期と言われている。仔犬達にとってニンゲンとは、母や兄弟との新睦を十分深めたあとに、慣れ親しんだ棲み家の果てで出会い、さらにそこから外の世界へと導いてくれる存在になる。仔犬はここで「人間社会のものごと」、たとえば変わった場所や犬以外の生物、聞いたことのない音や触れた事のない物に対して十分親和性を深めていく必要がある。特に5週から7週目までの間は意識的に毎日違う人々を家に招き、仔犬と遊んでもらう必要がある。毎週グルーミングセッションを設け、子犬が体のどこを触られてもへいちゃらなようにする。また、人との社会化期とはいえ、この間も仲間の犬達とたくさん遊ぶことは、その犬の一生涯を通して大事な意義をもつ。この時期の後、仔犬は外界のものに対して懐疑的な態度で挑む(一般的に「恐怖期」とよばれる)時期に入る。

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  ここまでの内容を見てみると、自分が仔犬の最初の一月用に「社会化手順表」みたいなのを作成していて、気にしすぎかな・・・・・・と思っていたのが、あながち悪いアプローチでもない気がしてきた。特に、防衛本能に優れた護衛犬種やシェパード系統の犬は、社会化期の終わりが他犬種と比べてはっきりしているという話を色々なところで耳にするので、がんばりどころだ。うちの犬は諸事情により9週目近くなってから家に来ることになったので、最も効果的に社会化出来る期間は実質、3週間と限られている。時間をなるべく有効活用するために、計画的にがんばりたい。