シェパードをアダプトすること



 散歩中、犬好きの人とすれ違って話しかけられ、その人が以前ボランティアをしていたというミネソタのレスキューグループの話になりました。会話の中でその人は、「私は『純血犬のブリーダー』という職業、趣味をサポートしない!不用品として捨てられる犬がこんなにも多くいるのに。」と話していたので、ブリーダーの所から来た犬を飼っている私は若干居心地の悪い思いをしたのですが、実はこういった経験は、今までにも何回かあります。



 アメリカでは「犬をシェルターからもらう」という事がかなり社会に浸透してきていて、本当に様々な取り組みがされています。私がよく読んでいる犬のウェブマガジンでも、こんなふうに↑Second Chance Movement等と銘打って、たとえばこのプロジェクトのページをスクロールしていくと、下の方には愛犬がシェルターから来たことを表明する様々なグッズが販売されていて、売上が保護団体等に寄付されるという仕組みになってたりします。






 なかなかファッショナブルだし、メッセージも、犬好きだったら、思わず「わーほしい!」となりそうな感じ(自分だったら、グレーのシャツに翼の生えたロゴのやつがいいなぁ)。けれどもこれは、愛犬をシェルターやレスキューから迎えた人、慈善活動に寄与した人だけが着られる、「選ばれし者の服」なのですよね。身寄りのない犬を助けるという行為のブランド化が、うまいこと出来ていると思います。


 私が犬を飼う時「シェルターから迎える」という選択肢がなかったのは、長い長い(1年以上に及ぶ)選考の結果、自分の用意できる環境に合ったシェパードを飼おうと考えていた私にとって、また、これから乳幼児が家族に加わるという状況を踏まえて、「シェルターはシェパード(系の犬)をもらってくる場所として最適ではない」と、いろいろと悩み考えながら判断したためです。

 そもそもシェパードという犬種に対してとりわけ愛着を持っていて「シェルターにシェパード系の子犬がいる」と聞くと、皆うちに連れて帰ろうと思うに決まっているので、里親募集の掲示板とか、シェルターのボードなどは意識して見ないようにしている程です。しかし、そうまでするのには理由があります。


たまたま通りかかった、地域の里親会にて。
写真のこの方はとても上手に子犬をハンドリングしていた。


 まず、牧羊犬系の犬全般に言えることですが、彼らは記憶力にとても優れ、作業欲求が強いという点が挙げられます。これは犬種の美点ですが、こういうタイプの犬が見知らぬ一般家庭→シェルター→レスキューを経てくると考えると、この美点が裏目に出る可能性があります。

 不幸にして飼っているシェパードを手放さねばならなくなった家庭で、それまでどんな風に犬が飼われていたかが謎なのは、貰い手にとって不利です。もちろん大多数の犬は必要最低限のケアはしてもらえていると思うけれども、たとえば基本的なしつけが分からないとか、他の人や犬と遊ぶ時の手加減がわからない、トリミングを全く受け付けない、などは保護された犬の間で比較的よく見るパターンです。ネグレクト等、最悪虐待を受けている可能性もあります。

 また一般の人からすると盲点なのですが、レスキュー等の保護団体に引き出された後も、犬達がきちんとした扱いを受けられているとは限りません。自分のバイト先(メインにハイエンド犬用品と冷凍餌・プレミアムフードを扱っている)でも、レスキューグループと協力して里親会などを行っていると、「レスキューグループの人も本当にさまざまである」という感想を持ちます。

 人格的に素晴らしい人もたくさんいますが、一方で感情的な目でしか犬を見られない人、人対人のコミュニケーションが下手な人がいます。どう見ても経験が浅い人、トレーニングへの意識が低い人、古いトレーニング法に固執している人も、結構多く見かけます。なぜかいつも金銭的にギリギリになっているグループもあります。そういうところは犬が過密になっていたりして、世話が行き届かず、汚れた子犬をお店で洗ってあげたこともあります。里親イベント等の日になると、ごった返した人々の中で吠え続ける子犬を手荒に扱うボランティアを見かけたこともあります。

 シェパードは特に学習能力が高いので、しつけにすぐに反応するかわりに、悪い癖を身に付けるのも早いものです。どのような出自か分からない彼らが、どういう人の手を介してくるのか(=どういう学習をしてくるのか)不明、選べないという事は、貰い手にとって大きなリスクと言えます。



クレートの中で、おりこうにしている兄弟犬。コリーのミックスかな。
とてもかわいい。


 そして健康の問題があります。

 たとえば現代のジャーマンシェパードのジーンプールには、諸説あるけれどおよそ150の遺伝性疾患を引き起こす問題遺伝子があるとされていて、計画的な繁殖と、生まれた子犬の健康状態の経年推移を観察する事が、最近特に重要視されています。

 ジャーマンシェパードはアメリカでは非常にポピュラーな犬種で(Rレトリーバーについで全米第二位。AKC-2017)、毎年沢山の子犬が産まれています。ということはそれに比例して、いわゆる「バックヤード・ブリーディング」の率も高いと、容易に想像することができます。Gシェパのバックヤード・ブリーディングは、シェパファンの間ではすごく賛否両論のある話題で、ひとつの大きな理由が、この生まれてくる子犬の健康への不安、犬質のばらつきにあると言えます。

 コディのシェパピ仲間にも、バックヤード出身の子が何頭かいましたが、気質的にも健康的にも全く問題なく育っていく犬がいる一方、若くして神経系の病気を発症し、それがもとで階段から落ちて脱臼してしまったとか、股関節形成不全と診断がおりてしまったりとか、体は健康そのものだけど、成犬のオスなのに20キロいかない犬になったとか、そういった出来事が実際に身近なケースとしてありました。愛犬の病気は飼い主にとって精神的に辛く、犬と飼い主の人生に深刻な影響を及ぼすかもしれないバックヤード・ブリーディングと、そこから来て、シェルターに捨てられる犬は、潜在的なリスクが高いと言えます。




 しかしその一方で「犬種をよりよくしたい」「責任感ある人々に、犬種と言うアートをつないでいきたい」と、日々真面目に勉強したり、スポーツやショーイングに取り組んでいるブリーダーは積極的に支持されていくべきだと思うので、一概に「ブリーダーだからといって、サポートしない」という、冒頭の人の様な立ち位置もまた、マクロな視点では犬の世界のためにならないのではないかと、私は思います。なぜなら犬のレゾンデートルとは「作業能力」であり、作業能力の追及の結果生まれる「犬種」とは、犬と人との文化史のなかで重要な意味を持つと思うからです。

 ここでいう「作業」とは、なにも警察犬や麻薬探知犬みたいな、高度なものばかりとは限りません。「よき家庭のコンパニオンである」という事も、立派な技能であり、そうであることは犬にとっての「作業」になり得ます。

 自分の犬がものを壊したり、他の犬に吠えたりする心配なく、安心してどこへでも連れて行くことが出来るか。リードを引っ張らず、楽しく散歩をさせてくれるか。何らかの理由でリードが切れたり、手から離れても、呼べば必ず戻って来るか。知らない犬や人にも、落ち着いて挨拶できるか。道に落ちているベーコンバーガーを「leave it」出来るか。細かい、なんてことないことのように聞こえるかもしれないけど、「一緒に暮らしやすい犬」にとって大事な事ばかりです。そして、これらをどんな状況下でも安定して出来る犬は、そんなに多くはないはずです。

 ちょっと脱線しちゃったけれど、ここまで読み返してみて、もしそれでもシェルターからシェパード(系の犬)のアダプトをするとなったら、自分ならば ①自分の求めるラインの犬を増やしているブリーダーに里子にもらえる犬がいないか聞いてみる → ②シェパード専門のレスキューに問い合わせ、できれば若い犬を探す、のがいいんじゃないかなと考えました。犬種専門のレスキューは、犬がちゃんと扱ってもらえている可能性が高いし、知識が豊富な先輩とつながりが出来て、知恵を授けてもらえるのが大きなメリットだとおもうからです。

 とりとめもなくいろいろ書いてきましたが、将来的に娘がある程度大きくなったら、ファンドレイズの手伝い等の形で、レスキューのシェパードと何らかの形で関われたらなあ、という気持ちも最近ちょっとずつ出てきています。とにかく犬って本当にいい生き物だなあ、と思う事が年々増えてきたから、その犬をとりまく私達人間のほうが頑固になったり排他的になるのではなく、協力してより良いヒトーイヌの共存法を目指していけたらいいのにな、と今日は思ったので、書いておきます。